
おざさは、50代を迎えてからふと自分の暮らしを見つめ直そうと思い立ち、これまで住んでいた関東を離れて滋賀に引っ越してきた。新しい環境は気分を一新させる。けれども、目覚めてすぐに窓の外を見ると、広がる琵琶湖の水面も、連なる山々のシルエットも、まだ自分には遠い世界のように思えた。理由は簡単だ。おざさは、滋賀についてほとんど何も知らなかったのだ。
引っ越しの翌朝、見慣れない街の空気を吸いたくて、軽い散歩に出た。通り沿いには昔ながらの商店が点在し、散歩の途中で出会う人々は温かい笑顔で挨拶してくれる。おざさは少しずつ胸が弾むのを感じた。どんな人たちが暮らしているのだろう、どんな店があるのだろう、何を大切に思っているのだろう…そんな想像が次々とふくらむ。
「ここには、きっとたくさんの魅力があるはずだ。」
そう感じ始めたのと同時に、おざさは「もっと滋賀を知りたい」という強い思いを抱いた。そして日々散歩がてら街を巡り、たまたま話しかけた地元の人から美味しい和菓子屋を教えてもらったり、古いお堂を訪れたりするうちに、「もっと多くの人に滋賀の魅力を伝えたい」と考えるようになる。
おざさはかつて、仕事で簡単なホームページを作成した経験があった。そこで「滋賀の人の暮らしやおすすめスポットを紹介するホームページを作ろう」と思い立つ。とはいえ、そのホームページの名前がまだ決まっていなかった。いざ何かを始めようとすると、必ずネーミングで悩むタイプのおざさは、散歩中や寝る前など、ふと時間ができるたびに頭の中で言葉を転がした。
「滋賀の…しがの…うーん、しっくり来ないな……いや、でも“しがの”って響きがシンプルで悪くないかもな…」
最初は何気なく浮かんだ「しがの」というフレーズ。それを口に出すうちに、不思議な愛着が芽生えてきた。「しがの」には、“滋賀の〇〇”という無限の広がりを感じる。滋賀の日常、滋賀の人、滋賀の思い、そして滋賀の楽しさ…そういったものを丸ごと伝えられるかもしれない。おざさは最終的に「しがの」をホームページの名前に決めた。
名前を決めたことで、やる気が一気に高まる。だが同時に「何から取りかかろうか」と具体的な行動を考え始め、おざさはひとつの大きな目標を立てることにした。
「滋賀といえばやっぱり西川貴教さんだよな。会いたい。お話を聞いてみたい。」
西川貴教さんといえば、滋賀県出身で有名なアーティスト。彼が奏でる力強い歌声は、滋賀の誇りとも言われている。もともとファンだったおざさにとっては夢のような目標だ。しかし、おざさは50歳を過ぎているとはいえ、何か新しいことをやり遂げる気持ちの強さでは若い頃に負けるつもりはなかった。
「よし、まずは地道に滋賀の人たちの声を集めるんだ。行きつけの店を作ったり、地元のイベントに顔を出したりして、ちょっとずつコツコツ積み上げていこう。ホームページ『しがの』が有名になったら、西川さんに会うチャンスが巡ってくるかもしれないし、きっといろんな人が応援してくれるはず。」
そう決意を固めたおざさは、次の週末の予定をノートに書き込む。行ってみたいカフェ、地元の人オススメの歴史スポット、近所のおばあちゃんに教えてもらった八百屋…。できることは小さくても、一歩ずつ進んでいけば、大きな夢を掴むことができるはずだ。
こうして50代男性・おざさの「しがの」プロジェクトは、静かに、しかし着実にスタートを切った。彼の目には、まだまだ知らない滋賀が無数に広がっている。彼の第一目標は「滋賀が誇るアーティスト・西川貴教さんに会う」こと。そんな大きな夢を胸に、おざさは今日も「しがの」に載せるための出会いや情報を探して、琵琶湖のほとりを歩き続ける。彼の物語はまだ始まったばかりだ。
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